テレビを所有してしまうと、法律上でNHKとの契約を迫られてしまうというのは有名な話ですが、国民の中にはそれを納得できない人も多いです(私もその内の1人)。
そんな人の中には「アンテナ線を繋いでいない/DVD視聴」などの目的のためにテレビを所有していて、それでも受信料を支払うべきだと言ってくる集金人とバトルしたことがあるという人もいるのでは?
そして「NHKが映らないテレビがあれば、喜んで買うんだけど…」という声も少なくありません。
こんな所に金の成る木があるにも関わらず、どこのメーカーもそれを作っていないということを踏まえると、NHKだけが映らないテレビの実現は難しいということなのでしょう。
そこで今回は「NHKが映らないテレビって販売できないの?」というテーマで進めていきたいと思います。
NHKが映らないテレビの存在
SONYブラビア業務用ディスプレイ「BZ35F/BZシリーズ」
2018年6月、SONYの株主総会にて「NHKだけ見られないテレビを作ってほしい」と株主に要望され、大きな話題となりました。
そして販売されたものがコチラの業務用ディスプレイ「BZ35F/BZシリーズ」です。
液晶モニターや法人向けブラビアと呼ばれていますが、実際は「NHKが映らないテレビ」ではなく「NHKが映らないテレビのような物」と解釈した方がいいでしょう。
その理由は、チューナーが一切搭載されておらず、あくまでテレビではなくモニターであるという部分に起因しています。
つまり「NHKは映らないけど、その他の民放も映らない」「テレビという言い方をせず、モニターと捉えた方が間違いない」です。
Android TVを搭載しているので、インターネット回線を使ったアプリ視聴などは可能となっており、Abema TVやVOD(Hulu、ネットフリックス等)の視聴は可能となっています。
しかし、残念ながら多くの方が期待しているような「民放のドラマやバラエティはリアルタイムで見放題!でもNHKだけはどうやっても映らない」というテレビの実現とはなりませんでした。
ちなみにこれなら、HDMI端子を持っている安いパソコン用のモニターを購入し、Fire TV Stickを指しておけば同じ環境が作れるので、何も「BZ35F/BZシリーズ」に固執することはないでしょう。
NHKだけを映らなくするのは技術的な問題ではない
普通に考えて「NHKだけ映らないテレビ」と言われたら、こんなまどろっこしいことにはならないと思いませんか?
単純に「NHKの番組だけが映らないテレビ」が欲しいわけで、民放も見れないのであればそれはテレビではなく、ただのモニターです。
世界のSONYがこんなことをしているのを見ると「もしかしたらNHKだけを映らなくさせるというのは技術的に難しいのかな?」って思ってしまうのも無理はありません。
もしくは「実現は可能だけど、それをやっちゃうとテレビそのものの価格が高騰して、誰も買わない」とか、あるいは「NHKから『それをやったらどうなるか分かっているな?』という圧力があるのか」等々、色々と推測してしまいます。
結論から言うと、NHKだけを映らなくするという行為そのものは、技術的には何ら問題がないとのこと…そりゃそうですよね。
ただし特許上の問題により「作ろうと思ったら作れるけど、それを一般的に販売できるかどうかはまた別の話」というのが現状のようです。
立ちはだかる「ARIB(アライブ)規格」と特許問題
アライブ規格とは?
テレビには「ARIB(アライブ)規格」という基準が設けられており、その中では「テレビ=全チャンネルを受信できる前提」となっています。
つまり、NHKを始め「特定のテレビ局の放送だけ受信しない」となると、このアライブ規格を満たせない可能性が出てくるということです。
アライブというのは一般社団法人電波産業会のことで、会員にはNHKは当然として、各民放テレビ局やラジオ局、SONYや東芝などの各テレビメーカー、docomoやソフトバンク等も名を連ねています。
そしてこのアライブによって定められた「デジタル放送に関する標準規格」をアライブ規格と呼び、守るべきルールとして設けられているようです。
アライブ規格、守らなかったらどうなる?
このアライブ規格自体は「会員みんなで『守ろうね!』と約束したルールにしか過ぎない」ため、ここに法的な拘束力は一切持っておらず、必ずしも守らなければならないルールでもないとのこと。
「じゃあ破ったらどうなるの?」と思うじゃないですか?どうやら「B-CASカードが発行されない」そうです。
B-CASカードとは、B-CAS社が提供する限定受信方式、または同機能を実現するために受信機に設置するICカードを指しますが、ここでいう限定受信方式が別名:ARIB限定受信方式と呼ばれているということで、ここに来て繋がった感があります。
B-CASカードがなければデジタル放送は受信できませんから、いくら国家基準でないとは言え「アライブ規格を守らないと、そもそも売り物にならない」と言えそうです。
ちなみに「NHKが映らないテレビさえあれば、B-CASカードなんていくらでも手に入るんじゃね?」って思うじゃないですか?
NHKと一緒で、B-CAS社やアライブ規格も抜かりありませんでした。
赤線部分を読めば分かるように「B-CASカードが同梱されていない受信機器へのカード発行は出来ません」とあります。
つまり、NHKが映らないテレビを製造・販売したところで、B-CASカードの発行は認めてもらえず、正攻法でB-CASカードを入手することは不可能ということです。
アライブ規格を破った事例(パナソニック編)
過去にパナソニックが、アライブ規格スレスレの商品を販売し、村八分に追い込まれたことがあります。
2013年4月、パナソニックが販売しているスマートビエラシリーズが、このアライブ規格のガイドラインに違反しているとされ、各テレビ局でCM放映を拒否されるという事態に発展しました。
正確に言うと「各民放テレビ局が拒否したわけではなく、パナソニックがアライブの規約について協議中の間はCM放映を自粛している」だったらしいのですが、真偽のほどは不明。
「自主的と言う名の強制」なんて場面は山ほどあると推測されるので、こっちからすればそのあたりはどうでもいいです。
何に違反していたかというと「テレビに電源を投入した時に、テレビ放送波以外の情報が表示されてはならない」という部分になります。
スマートビエラシリーズでは、画面の枠に「インターネットの情報、動画、天気予報などのコンテンツ」を表示する機能を持っており、これが「放送局が放送している番組の一部と思われたら困る」という、物言いがされたようです。
アライブ側の意見としては「テレビは放送法に基づいて放送されていて、公共性もある立派なコンテンツなんだから、誰でも簡単に好き勝手言えるようなネットと一緒にしないでくれ」という意見のようですが…。
個人的には「既得権益が脅かされるから、ネットとの競合はやめろ」という、いわば脅しのようなものではないかと思っています。
アライブ規格を守るには特許問題が生じる
そして問題なのは「特許」も同じです。
現在、アライブ規格を満たすのに必須の特許は複数の企業が所有しており、これらをULDAGE(アルダージ)という会社が一括管理しています。
通常、テレビを製造し販売するためにはアライブ規格を満たしている必要があり、それを守るためには「アルダージが一括管理している著作権も守らなくてはならない」という仕組みです。
NHKなどが所有しているテレビに関する特許権は、アルダージに許諾権が与えられているので、テレビのメーカーは「テレビ1台につき〇〇円」という特許使用料をアルダージに納めることで特許権をクリアし、初めて販売に漕ぎつけるという流れになっています。
食品や電化製品など幅広い分野で日本製にこだわっている人は少なくないと思いますが、パソコンや車などの精密機器では外国産の製品も多く見かけるのに、テレビにおいては「SONY、東芝、パナソニック、シャープ」など日本のメーカーばかりが目立っていると思いませんか?
もちろん「LGエレクトロニクス」などの例外はありますが、基本的に海外で製造されたテレビを持ち込めない事情はここにあると言っても良さそうです。
NHKの電波を受信できないアンテナの存在
NHKが映らないテレビが作れないなら、外付け機器での対処は?
ここまでで「NHKだけが映らないテレビを作ることは難しい」とされている理由について解説してきました。
では「テレビに後付けや外付けできる機器で、NHKを映らなくしたらどうなるのか」についてです。具体的に言うと、イラネッチケーと呼ばれるフィルターですね。
このフィルターはアンテナ線の接続端子に噛ませることで、NHKの電波だけを除去してくれます。つまり、これを取り付けしているテレビでは「民放は見れるけど、NHKだけは映らない」という状況になるわけです。
そして、これを取り付けたテレビでNHKに受信料を支払うべきなのかどうなのかを、裁判で争ったこともあります。結論としては「簡単に取り外しが可能で、取り外せば見られるから受信料を支払え」という結論が出ました。
そこで今度は、簡単に取り外せないようにボンドなどの接着剤を使ってガチガチに固めたらどうなるかということで、別の裁判に発展します。
これも残念ながら「テレビを解体し、接着剤をドライヤーで温め、ドライバーで削り取れば、テレビを壊さずにイラネッチケーの取り外しが可能である」と立証されてしまい、これについても「取り外しが可能だから、支払う必要がある」という結論が出ました。
NHKだけが映らないテレビは特許権によって作れない、NHKだけを映らなくさせるフィルターをテレビに後付けしても、難易度に関係なく取り外せるようではダメ。
ということで、次のプロセスは「絶対に取り外せないイラネッチケー」か別の手段になるわけですが、今度はアンテナからのアプローチです。
アンテナにイラネッチケーを組み込む
テレビと単なるモニターの大きな違いは、チューナーがあるかどうかです。
チューナーとは「テレビ放送やラジオ放送の信号から、映像と音声を取り出す装置」のことであり、アンテナと接続する必要があります。
そして、アンテナに関する特許権には、テレビのようにややこしいしがらみが一切なかったことも分かり、今度は「アンテナ一体型イラネッチケー」で勝負をかけます。
NHKから国民を守る党の立花党首が言うには「イラネッチケーを取り付けているとNHKが裁判をしてこない(裁判に負けて「これをすれば受信料を払わなくていい」と思われてしまうことを危惧しているのでは?)」そうです。
もしこれが認められれば、NHKだけの電波を受信しないアンテナが発売され、ホテルを始めとする宿泊施設には大人気となるでしょう。
取り外せないイラネッチケーでの裁判
イラネッチケーを取り付けた裁判では、「簡単に取り外せる」「やろうと思ったら取り外せる」という部分で、NHKに軍配が上がりました。
そこで「絶対に取り外せないイラネッチケー、取り外すとテレビが壊れてしまう」というシチュエーションを引っ提げて裁判を起こした女性がいます。
結果、2020年6月に東京地裁の判決で勝訴を勝ち取りました。
「NHKは受信料を巡る裁判で初の敗訴」ということで、ネットニュースでは大々的に報じられています(テレビでニュースになったかどうかは不明ですが)。
まだ東京地裁の判決にしか過ぎず、高等裁判所や最高裁判所でひっくり返る可能性は十分にあるものの、NHKの体質を見直すべき大きな一歩になったことは間違いないでしょう。
もし万に一つでも、この裁判を最後に勝つようなことがあれば、NHKが映らないイラネッチケー内蔵型のテレビが販売される日が近いかも。
▶NHKが敗訴!イラネッチケーで受信料を払わなくても大丈夫?
結論:NHKだけが映らないテレビを製造・販売するのは無理っぽい
NHKだけが映らないテレビは「作ることは可能だけど、それを一般的に販売できない理由がある」ということでした。
私のように受信料に疑問を持っている人間からすれば「NHKだけが映らないテレビを作れば儲かるのに、メーカーもバカだなぁ」なんて思ってる人も少なくないと思いますが、それは特許の面や既得権益のしがらみからも難しいようです。
しかし一方で「NHKだけを映らなくさせるアンテナ」は製造可能なようなので、これで受信料を支払う必要がないという判決が出れば、非常に大きな出来事になるでしょう。