NHKの集金人が水を得た魚のようになった裁判の判例として、受信契約締結承諾等請求事件があります。
これは各メディアが「NHKが勝訴!NHKの受信料は合憲である」という報道をしたため、正しい情報が広がらなかった典型的な例です。
ここだけを切り取ってしまうと「テレビを置いたらNHKと契約しなくてはならず、ここに契約の自由(断る権利)は認められない」「契約した以上は支払い義務が生じる」「受信料を支払わないということは違憲だ」と感じてしまう人も多いのではないでしょうか。
確かにNHKが勝訴したと言えばそうなのかもしれませんが、これは勝ち負けという一言で簡単には括れない判決となっており、更には「多くの人がこの裁判の本質を勘違いさせられている側面」が見え隠れしています。
以下では「NHKの放送受信料が合憲である」という裁判(受信契約締結承諾等請求事件)の判例を交え、この判決がもたらした結果について分かりやすく解説したいと思います。
受信契約締結承諾等請求事件とは?
- 放送法64条1項の意義
- 放送法64条1項の合憲性
- 日本放送協会の放送の受信についての契約の申込みに対する承諾の意思表示を命ずる判決の確定により同契約が成立した場合に発生する受信料債権の範囲
- 日本放送協会の放送の受信についての契約に基づき発生する,受信設備の設置の月以降の分の受信料債権の消滅時効の起算点
受信契約締結承諾等請求事件とは、上記の4つについて争われた裁判(平成29年12月6日 大法廷判決)です。
当時のニュース番組では、二言目には「NHKが勝訴/受信料は合憲」と騒がれていましたが、争点のすべてでNHKが勝ったというわけではありません。
以下で詳しく紐解いていきたいと思います。
「NHKは見てるが契約はしていない」というケース
まず初めに、今回の裁判では「被告人がテレビを所持・視聴していることを認めており、そのうえでNHKと契約をしなかった」というケースです。
「テレビの有無」「放送の受信を目的としているかどうか」「設置者が誰か」などで争ったのではありません。
「被告人がNHKから『テレビを所持・視聴しているという証拠を握られている』という状況、かつテレビを設置したのは自分であると被告人自身も認めている」という状況となっています。
そのうえで「NHKと契約する・しないというのは、個人の自由じゃないのか」「契約の自由に反するのではないか」などを争った裁判です。
まず「契約するかどうかは個人の自由じゃないのか?」という訴えについては認められず、本来のルール通り「テレビを設置したら、NHKと契約をしなさい」という結果が出ました。
放送法第64条に示されているように「テレビやそれに準ずる受信機を設置した者は、NHKと契約をしなくてはならない」というルールがある以上、それは合憲だって判断されたというだけの話で、それ以上でもそれ以下でもありません。
<<放送法
受信契約締結承諾等請求事件における裁判の結果
裁判の判決となると難しい言葉が並びたてられていて、思わず耳を塞ぎたくなるという人も多いのではないかと思います。
そんな人にも、とりあえず「主文」だけは確認してもらいたいのですが、主文とはいわば結論のようなものです。本裁判における主文は、以下のようになっています。
本件各上告を棄却する。
各上告費用は各上告人の負担とする。
「本件各上告を棄却する、各上告費用は各上告人の負担とする」という結論が出されています。
上告というのは裁判の判決に納得できず、いわば「お前じゃ話になんないから、上司連れてきて上司に判断させろ!」というニュアンスの、裁判のやり直しを要求する行為と思って差し支えないでしょう。
被告人(視聴者)は「確かにテレビを見てるけど、テレビを持っているだけでNHKと契約しなければいけないというのはおかしい!」という言い分を却下されたという感じです。
ただし、これだけであれば「被告人の上告を棄却する」となるはずです。各上告と言っている以上、原告であるNHKにとっても不服の内容があり、上告したものの棄却されたという事実があります。
これについてはあまり報道されず、ニュースではただただ「NHK合憲!」などと騒がれてしまい、NHKにとって都合の良い部分だけが報道されたと言っても過言ではありません。
受信契約締結承諾等請求事件の真実
受信契約締結承諾等請求事件でもっとも重要なのは、NHKの放送受信料が合憲かどうかではありません。問題なのは「放送法なんて曖昧な法律が、曖昧でNHKが都合よく解釈できるまま存在している状況」だと思います。
これが存在する以上、テレビを設置したらNHKと契約しなければならないし、それを違憲にしたければ放送法そのものを国会で審議して変えろって話になるのは当然です。
そして今回の肝は、NHKが上告して棄却された内容。今回の裁判で、NHKが不服に感じた内容です。
NHKは本裁判で「集金人が訪問して「契約してくれ」と言ったら、相手が拒否しても2週間で契約が成立するということを認めて欲しい」と訴えて、これが棄却されています。
そして「相手が拒否している以上は勝手に契約することは認められないので、拒否している相手との契約を認めて欲しければ、今回みたいに裁判やって判決を貰ってくれ」という結論を出されているんです。
NHKとしては受信料を不払いしている人すべてに対して裁判をするというのは現実的ではなく、さらに現状の法律では「受信料の不払いは違法ではない」ということを理解しているので、このような無茶な要求をしたんでしょう。
本裁判では、無茶苦茶な要求をしたNHKに対して「公共放送の役割を丁寧に説明し、受信料を支払う意味を理解してもらう不断の努力」が必要とし、さらに「受信契約が未確定の段階で徴収するのは適当ではない」という結果も生みました。
これが受信契約締結承諾等請求事件の真実です。個人的には、この裁判でNHKが勝ったと言えるのかどうかを疑問視しており、この裁判でじゃあ今までと何が変わるかと言ったら「何も変わらない」と思っています。
結論:テレビや新聞の情報は鵜呑みにせず、自分なりに調べてみよう
受信契約締結承諾等請求事件については、各メディアがこぞって「NHK勝訴!」と報じました。確かに嘘は言っていないかもしれませんが、私からすると国民に知られたくないことは必死に隠していたと思えるほど、不自然な報道の仕方だったと感じました。
- テレビを設置したら、NHKと契約するのは合憲であり義務である
- 住人が契約内容に納得しない場合、納得してもらえるように努めるのはNHKの役目であり、一方的に成立させられるようなものではない
- どうしても住人が契約に納得してくれない場合、受信料の支払いをしてくれない場合、NHKは裁判を起こして判決を求める必要がある
もしあなたの家にNHKの集金人が来て「放送受信料が合憲と判断された!」と大声で言ってきたとしても、だからと言って受信料の支払いが法律で定められているわけではありませんし、あなたにお金を払ってもらえるように努めるのは集金人(NHK)の努めです。
集金人が努めるべきは脅しや脅迫などではなく、住人に「いかに気持ち良くお金を支払ってもらうか」であり、受信料が必要な理由を真摯に説明し、納得してもらうことではないでしょうか。